[]大駱駝艦 「壺中天」公演

327a2e6a.JPG 昨年、年も押し迫った師走の暮れ、交通量が減ったとはいえ、西武バスがひっきりなしに通るバス通りの吉祥寺通り。ここに驚く光景が。赤い炎が描かれた1ボックスワゴンの屋根に、全身を白粉のようなもので真っ白に塗った若い男たちが8人ほど群がり、何やらポーズをとっている。全員、白いふんどし一枚の姿。一瞬、あっけにとられたが、ワゴンの目の前にあるビルの地下が公演場になっている劇団(正確には舞踏集団らしい)、「大駱駝艦」がポスター用の写真を撮影しているところらしかった。自分たちの公演場まん前とはいえ、なぜ、真っ昼間に、大通りの路肩で撮影したのか、その理由は定かでない。真冬にふんどし一枚の丸裸。パトカーでも通りかかったらきっと何か言われたに違いない。



 この興行主は俳優、麿赤兒。「まろ・あかじ」と読む。奈良県出身、早稲田大の文学部で演劇を学ぼうとしていたが、一般教養科目にすぐに飽きたらしく、わずかに1年次で中退。その後、アウトサイダー的な舞台、公演、役者の道を歩む。



 ここ吉祥寺北町に、

 

 大駱駝艦



 を開いた。副次的な名として



 天賦典式 吉祥寺「壺中天」



 とある。「きちゅうてん」とは、かつて後漢時代、費長房が市場職人をしていた時、市場にいる薬売りの老人が、商売が済むと店頭に掛けていたつぼの中にいつも飛び込んで姿を消した。費長房がその老人に頼み一緒に壺の中に入れてもらったところ、その壺の中には宮殿があり、酒や肴のたくさんある別天地であったと言う話にちなみ、別天地、別世界のことをいうそうだ(後漢・費長房伝)。日本では中国のこの故事に習い、茶室の空間を壺の中に喩えるようになった。



 自らをうつす壷の中の世界、酒を飲んで俗世間を忘れる愉しみの意味もこめて稽古場にこの名称をつけたそうである。



 現在、一昨日1日から12日(日曜)まで、



 大駱駝艦 壺中天公演  村松卓矢「穴(Hole)」



 が公演中。今日と明日、来週の木曜、金曜にだけ残席があるらしい。公演の開始前にはいつも吉祥寺通りの歩道を見慣れぬ人たち数人の団体が歩きながら公演場に移動する様子が見られる。ロシアか欧州あたりと思しき外国人が数人いつも混じっており、固定ファンのようである。



 全身を真っ白に、あるいは真っ黒に塗ったふんどし姿の若い丸裸男たちが舞台を荒々しく駆け回る独特の舞台。免疫の無い人がいきなり見ると仰天してひっくり返ること間違いなし。他に例のないあの迫力の存在感が、外国人にも大うけで、毎回満員になる。分からない人には全く分からない。ちなみに私もその「分からない」方に入る。引き締まった体躯の若い男たちの身体性を全面に押し出したこうした舞台は、日本にはこれまでなかったかもしれない。



 携帯端末向けにもシンプルなウェブがあり、公演情報が載っている。併設して舞踏集団の練習塾、「無尽塾」を開いており、公演記録多数。



 大駱駝艦 壺中天

 武蔵野市吉祥寺北町2-1-18 コスモ吉祥寺北町B-1

 TEL:0422-21-4982