牧島如鳩展  神と仏の場所

28755da7.jpg 以前、NHKの「新・日曜美術館」で紹介されていた展覧会の巡回がやってきたのでご紹介。



 牧島如鳩展 神と仏の場所



 「まきしま・にょきゅう」と読む画家がいた。栃木県足利市に生まれ(1892-1975)。宗教をモチーフにした油絵を手がけた画家であるが、彼の宗教画は神仏混合ならぬ、キリスト教と仏教の混合芸術である。他にこのような画風を打ち立てた画家はほとんど見あたらない。



 「500年後の人々に自作を見てもらいたい。」



 彼はそう言い残して死んでいった画家であるが、死後、半世紀も経たず早くも注目を集めている。



 元々、牧島は東方教会である正教会(ハリストス正教会)のイコン画家として出発したが、後に深く仏教の教えにも傾倒し、最終的に神も仏も同一であるという独特の境地に。それがイコンの他、



 祈祷の天使(修善寺ハリストス正教会蔵)

 ゲフシマニアの祈り(金成ハリストス正教会蔵)



 のように純粋キリスト教絵画とともに、



 大自在千手観世音菩薩



 のような仏教画の他、



 慈母観音像

 誕生釈迦像(願行寺)

 

 のようなキリスト教絵画の構図や描写を非常に強く反映した「仏教画」も含まれることになった。鮮やかな色彩と洋画的な立体感を持つ不思議な仏画。未体験の迫力、インパクトがある。



 滅多に見られない機会。吉祥寺駅の隣、三鷹駅南口すぐの市美術ギャラリーにて。8月28日まで。



 2009年 7月25日(土)ー8月23日(日)

 10:00ー20:00(入館は19:30まで)

 月曜休館

 一般=600円(会員=480円)、 65歳以上・学生(大・高)=300円

 中学生以下・障害者手帳をお持ちの方は無料



 (財) 三鷹市芸術文化振興財団・三鷹市美術ギャラリー

 

 http://mitaka.jpn.org/ticket/gallery/





 彼の父、閑雲がハリストス正教を信じた日本画家であったことが出発点で幼児洗礼を受けた如鳩。その父から絵の手ほどきを受け、幼い頃から画才を発揮。16才で今も御茶ノ水にあるハリストス正教会ニコライ堂の神学校に入学。山下りん(1857-1939、日本最初のイコン画家)からイコン(聖画)を学んだ。各地のハリストス正教会に所蔵画が残されているのは赴任しながらイコンを制作したことによる。



 ただ、如鳩はそれに留まらず、早い時期から仏教の勉強や仏教の僧侶と交流。仏画を描いた。死者とのかかわりや自らの私的な経験から、独自の境地を開き、独自の特異な宗教画が生まれたのであった。

 

 《涅槃図》は、結核のためわずかに27才で逝去した妻、静子の死がきっかけになった。彼にとって最初の油彩仏画である。実に10年をかけて描いたもの。伊東の朝光寺に奉納され、今も保存されている。



 1945年、東京大空襲の際にニコライ堂は次々に命を落とした遺体の安置場所になった。この体験が引き金になり、後に戦後、世の平和を望んで《誕生釈迦像》が描かれた。イコンの画法を応用して描かれた仏画であるが、キリスト教絵画よりも仏画によってより強く託そうとした如鳩の思いが投影されている。



 女性の上半身ヌード画となっている「魚籃観音像」は戦後、いわき市小名浜で、神道も含めた3宗教習合の作品。不漁に悩む地元漁師の依頼で描かれて地元漁協に納められた。



 小魚が入った器を手に魚籃観音が佇み、その左に天使と母マリア、右には菩薩と天女が配される。この絵を漁師の人々はトラックの荷台にのせて町を練り歩いて喜んだという。



 日本でしか生まれ得なかった宗教画ということができる展覧会である。