[]懐かしの吉祥寺 昭和29・30年
1934年から井の頭公園近くに住む写真家、土屋恂(83)が、これまで撮りためた吉祥寺や井の頭公園の作品を集めた本
「懐かしの吉祥寺 昭和29・30年」(ぶんしん出版・本体1800円)
が出版された。土屋さんはレンズ会社に勤める父の趣味がカメラだったことから、小学生のころから現像液の調合などを手伝い写真の技術を会得。15歳で海軍の中央航空研究所に入り、戦後は国鉄の鉄道技術研究所に勤務したが、仕事のかたわら写真を撮り続けた。
当時、毎日新聞社が主催する「日本報道写真連盟」の会員だった土屋さんは1954年から1955年にかけて地元のイベントや出来事を撮影してスケッチ記事として毎日新聞に提供していた。
出版された本では「街の記録」として計23点の新聞記事を掲載。昭和29年4月30日付は〈にぎわう井之頭公園〉の見出しで
○…天皇誕生日の二十九日は行楽の足を奪うかと懸念された井之頭線の第二次ストが朝のうちに解決。新緑を求める人たちで井之頭公園はいつもと変わらぬにぎわいをみせた。
○…ツツジが色とりどりに花を咲かせ出したボート池のほとりは写生会の小学生たちでうずまった。
という記事と「写生する子供たち」と説明がついた写真が載っている。
自然文化園のゾウ、花子を撮った
〈郷愁しきり?花子さん水浴〉(同6月17日付)
ミス井之頭の水着姿の写真が目を引く
〈ミス井之頭に“八頭身” 万の観衆・押すな押すな〉(8月9日付)
など時代を映し出すスケッチ記事がある。
「戦後の困窮と混乱を脱しつつも、まだ経済一辺倒の価値観に染まりきってはいなかった良き時代の昭和の雰囲気が伝わってきます。」(本書)。
他の章は高度経済成長が加速する時代の「街の記憶 昭和40年」、1965(昭和40)年と2010(平成22)年の写真を対比する「吉祥寺の今昔」が収められ、世代を問わず見て楽しい「吉祥寺本」である。
土屋さんは
「吉祥寺も井の頭も変わってしまいました。昔の姿を今のひとたちに伝えたい。若い人に写真から何かをくみとってもらえれば」
と話している。
吉祥寺 消えた街角
著者:土屋 恂
河出書房新社(2004-06-18)
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