[]ソビエトアニメ劇場
かつてアメリカ合衆国大統領、ロナルド・レーガンはソ連をして
「神様を信じない悪魔の国」
と罵ったことがあるが、初代使徒ペテロにまで連なる使徒継承性を持ったロシア正教の歴史はアメリカ建国史を遙かに上回って長い。
ソ連は暗い全体主義の時代を長く経験したが、芸術分野は大きく打撃を受けたものの今も世界指折りの水準を保っている。これに対して、アニメーションなど子ども向けの番組作りでは大きく遅れたといわれる。しかし、それでも数多くの作品を残しており、世界のアニメーション映画史に足跡を残している。また、ソ連アニメは、戦後復興期の日本のアニメ作家に大きな影響を与え、日本のアニメ産業がここまで水準を上げるのに貢献している。そうしたソ連アニメを特集して吉祥寺駅北口、サンロードの北端にあるバウスシアターにて、4月26日(土)から3週間限定でソ連アニメのロードショーが開かれる。
吉祥寺にゆかりの深い宮崎駿監督のスタジオジブリ。2007年にリバイバル公開した「雪の女王」もよく知られているが、ヒットした「チェブラーシカ」、年々ファンが増しているチェコのアニメーションなど、若い客層を中心にこうした旧共産主義圏の作品は刺激に満ちている。
かつてバウスシアターは、旧ソ連のアニメーションやチェコアニメーションなど、希少性が高い良質なコンテンツの公開される機会を確保すべく上映に力を注ぎ、また国内の若手アニメーション作家にも上映の場所を提供してきた。バウスシアターには日頃は目にすることが少ない魅力的なキャラクターが溢れている。
■プログラムA:アニマル(90分)
■『キリン』(1986年/10分/ラオ・へイドメッツ/タリンフィルム)
動物園。お客は本物のキリンには見向きもしないのに、園長が機械じかけの人造キリンを置いたら、たちまち人だかりができる。
■『戦争』(1987年/20分/R・ウント、kh・ヴォルメル/タリンフィルム)
製粉工場の廃墟に群がるからす、ネズミ、こうもりの相互関係を描いて、戦争、侵略、あらゆる強権に異議を唱えている。
■『ハエとゴキブリ』(1986年/10分/R・ウント、kh・ヴォルメル/タリンフィルム)
エストニアの古典文学「ハエとゴキブリとクモ」をモチーフにした人形アニメ。
■『雄牛』(1984年/10分/ヴァルテル・ウースベルグ/タリンフィルム)
村中で愛され大切に育てられた仔牛が巨大化して遂には村人達の土地を荒らし始める 。
■『穴熊と月』(1981年/10分/I・ダニロフ、G・キスタロフ/カザフフィルム)
ママの誕生日のプレゼントを何にするか、まよっている穴熊くん。かえるや狼、らくだ、青さぎたちに相談し、水面に写った月をプレゼントしようとしますが・・・。
■『コウノ鳥のキーチ』(1971年/10分/L.ドムニン/モルドワフィルム)
ある鳥の巣で母親をワシにさらわれて困っている雛鳥をキーチが育てる事になるのだが ・・・。
■『野原』(1978年/10分/R・ラーマット/タリンフィルム)
野原で共同作業を営む人間と馬の交流を簡潔なフォルムと鮮やかな色彩で描く。
■『猟師』(1976年/10分/R・ラーマット/タリンフィルム)
自然界の秩序を乱して蛮行を繰り返す猟師の悲劇を描く。
■プログラムB:アイロニー(100分)
■『つくり話』(1984年/10分/P・ピャルン/タリンフィルム)
陽気でまぬけな猫を主人公にした物語で、スリリングにイメージが変容する遊び心と、道化芝居の雰囲気に満ちている。
■『草上の朝食』(1987年/27分/プリート・ピャルン/タリンフィルム)
慢性的なモノ不足と長蛇の列、融通のきかない硬直した官僚機構など、辛らつな風刺を含んだ描写を通して人間性の回復を訴える。
■『パパ・カルロ劇場』(1988年/10分/ラオ・へイドメッツ/タリンフィルム)
マリオネット劇の劇中劇の形式を借りて、嘘や暴力がまかり通り、人間は所詮、糸に操られるマリオネットではないかと思われるこの社会の舞台裏こそを暴いている。
■『ジャンプ』(1985年/10分/アヴォ・パイスティーク/タリンフィルム)
乳呑み子の時から跳躍に憧れてジャンパーになった男はやがてチャンピオンになり、観客の祝福を受けるまでになるが・・・。
■『ペスト』(1983年/10分/ダヴィット・タカイシヴィリ/グルジヤフィルム)
アスファルトに撒かれた黒い泥水はそれをなめた犬の姿を黒くし、犬に近づいた人間も又、黒く染まる・・・。
■『地獄』(1983年/18分/R・ラーマット/タリンフィルム)
第二次世界大戦の死と恐怖の予感を古ぼけた写真のようなモノトーンの画面にいきいきと蘇らせ、反戦のメッセージを訴えかける。
■『シティー』(1988年/15分/レイン・ラーマット/タリンフィルム)
見せかけだけの豊かさの裏に潜む人間疎外、精神的抑圧をグラフィックなタッチで描く。
■プログラムC:ファンタジー(90分)
■『ミトン』(1968年/10分/ロマン・カチャーノフ/ソ連邦動画スタジオ)
「チェブラーシカ」で有名な人形アニメの第一人者カチャーノフの代表作。
■『レター』(1972年/10分/ロマン・カチャーノフ/ソ連邦動画スタジオ)
少年と母親は、父親からの手紙を待っている。けれども来るのは無関係な人ばかり・・・ 。
■『ママ』(1970年/10分/ロマン・カチャーノフ/ソ連邦動画スタジオ)
こどもを寝かしつけて、お母さんは買い物にでかける。お母さんの脳裏には、こどもが起きて危険なことをしているシーンが次々と浮かんできて・・・。
■『最後の一葉』(1984年/20分/アーノルド・プロヴス/リガスタジオ)
“窓から見える木の葉が全て落ちたなら、私の命も尽きるだろうと”それを聞き知った貧乏画家は・・・。
■『夢』(1983年/20分/アーノルド・プロヴス/リガスタジオ)
オー・ヘンリーの原作を映画化。「最後の一葉」同様、主人公の人形にチャップリンを迎え彼独自の暖かさ、誠実さ、人間愛を巧みに表現している。
■『コサックの幸福』(1969年/10分/ウラジーミル・ダフノ/キエフスタジオ)
3人のコサックが活躍するウクライナの人気シリーズ。キャラクターが確立していないこの初期の作品では、そのうち1人が活躍する。
■『雨はやさしく・・・』(1984年/10分/N.トゥリャホジャーエフ/ウズベクフィルム)
レイ・ブラッドベリのSF小説「優しく雨は降りしきる」の映画化。広島国際アニメーション映画祭受賞作。
■プログラムD:ノスタルジー(95分)
■『ガイドゥーク』(1985年/10分/ユーリー・カツァプ、レオニード・ゴロホ/モルドワフィルム)
大貴族たちの不正や残酷な仕打ちに敢然と戦いを挑んだ、民族的な復讐者(ガイドゥーク)を描いた作品。
■『ビッグ・テイル』(1980年/15分/レイン・ラーマット/タリンフィルム)
エストニアに伝わる不屈の勇士“ビッグ・テイル”の伝説をモチーフに、神秘的なおとぎ話の世界が描かれる。
■『魔法にかけられた鳥』(1985年/10分/ハルディ・ヴォルメル、リホ・ウント/タリンフィルム)
蛇腹に折りたたんだ厚紙で作られた人形アニメ。物語はチュクチ半島の民話に拠っている。
■『夜』(1984年/10分/ウラジーミル・ペトケーヴィチ/スヴェルドロフスクスタジオ)
象徴的な手法で人間の孤独を描いたソビエト現代文学の奇才A・プラトーノフの「鉄ばあさん」と「地上の花」の映画化である。
■『プリッチオ』(綺想曲)(1986年/10分/イーゴリ・ヴォルチェク/ベラルシフィルム)
自伝的な回想をめぐらしながら人間と運命について思いを及ぼしていく作品。
■『祖国の樹』(1987年/10分/ウラジーミル・ペトケーヴィチ/スヴェルドロフスクスタジオ)
鍬を使って一心に畑を耕す農夫、井戸と風車、墓地の十字架と教会、それら全てを覆う命の樹・・・。詩的で幻想的な世界。
■『飛翔』(1973年/10分/レイン・ラーマット/タリンフィルム)
イカルスの神話をファンタジー豊かなグラフィックで描いている。
■『人になるには』(1988年/20分/ウラジーミル・ペトケーヴィチ/スヴェルドロフスクスタジオ)
老いた悪魔はある牧師を訪ねて、善い行いをするにはどうすればよいのか教えを乞うが ・・・。
■2008年/配給:ロシア映画社